NIFS

研究レポート研究活動状況

2021.11.29 研究レポート

高温プラズマ物理研究系 粒子輸送研究部門 / 教授 田中 謙治
核融合理論シミュレーション研究系 統合シミュレーション研究部門 / 准教授 沼波 政倫
核融合理論シミュレーション研究系 炉心プラズマシミュレーション研究部門 / 准教授 仲田 資季

核融合プラズマの乱流抑制に新たな可能性
- 日欧の国際共同研究により革新的核融合炉への新展開 -

 核融合発電の実現には、高温のプラズマを磁場で閉じ込めることが必要です。ところが、プラズマ中に発生する乱流がその閉じ込めを劣化させるため、乱流を抑制することが求められています。核融合科学研究所(NIFS)は、ドイツのマックス・プランク・プラズマ物理研究所(IPP)との国際共同研究によって、乱流抑制の新たな可能性を示すことに成功しました。

 磁場で閉じ込めた高温のプラズマは逃げていく(拡散する)という性質があるため、拡散を低減することが、核融合発電実現に向けた重要な課題となっています。プラズマの拡散をもたらす要因は「粒子の衝突」と「乱流」です。プラズマは多数のイオンと電子で構成されていますが、それらの粒子が衝突することで徐々に拡散します。この衝突拡散はプラズマを閉じ込める磁場の構造により低減できる可能性があります。それに対し、乱流による拡散を低減することは非常に困難です。乱流は大小様々な大きさの渦を伴った流れで、磁場で閉じ込めた高温のプラズマ中には様々な理由で乱流が発生します。そして、その乱流によってプラズマがかき乱されることでも拡散が起こります。この乱流拡散について、実験ならびにスーパーコンピュータを用いたシミュレーションによる研究が世界中で進められていますが、未だ十分には解明されていません。何が乱流を抑制するのかを明らかにして、乱流拡散と衝突拡散を同時に低減することが求められています。
 NIFSの田中謙治教授、沼波政倫准教授、仲田資季准教授、IPPのフェリックス ワーマー博士、パブロス サントポウロス博士らの国際共同研究グループは、NIFSの大型ヘリカル装置(LHD)とIPPのヴェンデルシュタイン7-X装置(W7-X)との詳細な比較実験を世界で初めて実行し、プラズマを閉じ込める磁場の構造が乱流の抑制に重要な影響を及ぼすことを明らかにしました。LHDとW7-Xでは、プラズマを閉じ込めるための磁場をプラズマの外部に配置したコイルによって生成します。これはヘリカル/ステラレータ方式と呼ばれ、LHDとW7-Xはこの方式の世界二大装置です。1998年に実験を開始したLHDは高温プラズマの安定維持を目指すために設計され、衝突拡散については、コイルに流す電流量を調整することで低減させていました。一方、2015年に実験を開始したW7-Xは衝突拡散を徹底的に低減するようにコイルの形状が設計されました。両装置はプラズマの体積はいずれも30立法メートルとほぼ等しいですが、コイル形状は大きく異なります。
 今回、同研究グループは、LHDとW7-Xでプラズマの加熱パワーをそろえた実験を行いました。これにより、プラズマの体積、密度、温度はほぼ等しく、磁場構造だけが大きく異なるという条件での比較実験が世界で初めて実現しました。この実験の結果、衝突拡散は従来の予想どおりW7-Xの方が一桁低いものの、乱流拡散はLHDの方が数分の1程度低いことが明らかになりました。さらに、NIFSの「プラズマシミュレータ雷神」や欧州の「マルコーニ」等のスーパーコンピュータを用いて、実験と同じ条件でのシミュレーションを行いました。実験と同様にシミュレーションでもLHDの方が乱流拡散が低減しており、磁場構造が乱流の抑制に大きな影響を及ぼすことが明確になりました。
 今回の研究によって、W7-Xの磁場構造は衝突拡散を低減し、LHDの磁場構造は乱流拡散を低減できることを明らかにしました。この結果は、衝突拡散と乱流拡散を同時に低減するためには、W7-XとLHDの長所をあわせることが非常に有効であることを示しています。NIFSとIPPでは、LHDとW7-Xを発展させてプラズマの拡散を更に低減した磁場構造を見出すため、スーパーコンピュータを駆使して探求する研究も進めています。今回の成果を基に、このような革新的な核融合炉を目指した研究が更に進展すると期待されます。

図 LHD(日本)とW7-X(欧州)

図 LHD(日本)とW7-X(欧州)。ねじれたドーナツの形をしたプラズマを磁場で閉じ込めていて、プラズマの体積はいずれも30 m3 (立方メートル)です。両者は磁場を形成するコイル(青色)の形状が大きく異なります。LHDは乱流拡散が小さく、W7-Xは衝突拡散が小さいのが特徴です。W7-Xの画像はマックス・プランク・プラズマ物理研究所 提供。

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