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2021.8.24 研究レポート

高温プラズマ物理研究系 粒子輸送研究部門 / 助教 小林 達哉

水素同位体効果の新たな側面の観測に成功
- 重水素プラズマで断熱性能が改善しやすいことを発見 -

 核融合発電の実現を目指し、磁場で高温のプラズマを閉じ込める実験が世界中で行われています。世界各国の実験装置では、軽水素ガスで生成したプラズマよりも、質量の大きい重水素ガスで生成したプラズマの方が、温度が上がりやすくなるという現象が観測されています。この現象は、軽水素と重水素が水素同位体であることから、「水素同位体効果」と呼ばれています。これは、重水素と三重水素を燃料として用いる将来の核融合発電では、より性能の良いプラズマが生成できることを示唆していますが、その原因は未だ謎に包まれています。原理の分からない現象に対しては、これまでと異なる側面より研究を進めていくことで、理解が進むことがあります。今回、大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で、水素同位体効果のこれまでとは異なる側面の観測に成功しました。

 磁場で閉じ込めたプラズマの温度は、中心部で高く外に向かうほど低くなっています。核融合発電の実現には、中心部のプラズマの温度を1億度以上に保つことが必要です。そのためには、プラズマの中心部から外へと流れる熱を可能な限り少なくするという、優れた「断熱性能」が求められます。そこで、中心部を取り囲むような障壁を作って、熱の流れを堰き止めることが有効だとされていて、この障壁を「内部輸送障壁」と呼んでいます。プラズマ中にこの障壁を意図的に作ることは極めて困難ですが、しばしば自発的に形成されることが、これまでの世界各国の実験装置で示されています。
 核融合科学研究所の小林達哉助教らの研究グループは、この内部輸送障壁に着目し、その発生条件に強い水素同位体効果が現れることを、LHDのプラズマ実験により世界で初めて発見しました。プラズマの断熱性能は、プラズマ密度の増減に伴い変化することが知られています。すなわち、高い密度の場合、断熱性能が高く、低い密度になると断熱性能が低くなります。ところが、ある極端に低い密度領域では、再び断熱性能が増加し、温度の高いプラズマが現れます。この断熱性能の改善は、内部輸送障壁がプラズマ中に自然に発生することで起こりますが、今回、同研究グループは、この内部輸送障壁が、重水素プラズマでは軽水素プラズマに比べてより高い密度でも発生することを発見しました。すなわち、重水素プラズマでは軽水素プラズマに比べ、断熱性能の改善が起こりやすいことを示しました。これまで、重水素プラズマでは温度が上がりやすいという水素同位体効果が知られていましたが、今回の発見によって、プラズマの性質が変化する条件にも水素同位体効果が現れることが明らかになりました。
 断熱性能の改善は、しばしばプラズマ中に強い流れが生成されることと関連づけられることが知られています。今回得られた結果を基に、今後実際にプラズマの流れの測定を行い、軽水素と重水素という燃料ガスの質量の違いによって、流れの生成されやすさが異なるかどうかを検証していきます。このような研究を通じて、水素同位体効果の背景にある物理の一刻も早い解明を目指します。

本研究成果は、T. Kobayashi et. al., "Isotope effect in transient electron thermal transport property and its impact on the electron internal transport barrier formation in LHD" Nucl.  Fusion 60 (2020) 076015,(NIFS repository)として、国際原子力機関が発行している学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に掲載されました。

重水素プラズマ及び軽水素プラズマにおける断熱性能と密度の関係を表すグラフ

重水素プラズマ及び軽水素プラズマにおける断熱性能と密度の関係を表すグラフ。断熱性能は密度の減少とともに低下しますが、ある密度以下になるとV字回復します。この断熱性能の改善は重水素で起こりやすく軽水素で起こりにくいことを発見しました。

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