研究レポート研究活動状況
2021.9.29 研究レポート装置工学・応用物理研究系 核融合装置工学研究部門 / 准教授 力石 浩孝
ヘリカル型核融合発電炉の超伝導コイル電源システムを考える
- 定常運転に適したコイルと電源の組み合わせは -
大型ヘリカル装置(LHD)において、プラズマを閉じ込める磁場を作るための超伝導コイルとそれに電流を供給する直流電源装置は基幹設備の一つです。将来の核融合発電炉においても超伝導コイルと直流電源装置が重要な構成要素であることには変わりありません。核融合科学研究所は、将来の核融合発電炉では、どのような超伝導コイルと直流電源装置の組み合わせが最適なのかについても研究を進めています。
最初に、LHDの超伝導コイルと電源構成についてご説明いたします。LHDには6対の超伝導コイルを設置しており、それらの超伝導コイルそれぞれに直流電源装置をつないでいます。これにより、6対の超伝導コイルに流す電流をそれぞれ個別に調節することができ、様々な磁場構造を作ってプラズマ実験を行うことができます。これらの電源装置は、朝に超伝導コイルへ電流を流し始め夕方に止める、という具合に実験日においては通電の開始と停止を繰り返しています。このようなLHDの電源構成では、6対のコイルでバランスを取りつつ運転するために、高度な運転制御が必要になる等の難しい点があります。
これに対して、将来の核融合発電炉では、プラズマを閉じ込めるための磁場構造は最適なものに決まっていると予想されます。そして、その磁場構造を作る超伝導コイルには、年間を通じて一定の電流を流し続けることになります。これらのことを基にして超伝導コイルと直流電源装置の組み合わせを考えると、現在のLHDとは大きく異なるものになるに違いありません。
力石浩孝准教授らの研究グループは、将来の核融合発電炉に適した超伝導コイルのつなぎ方として、複数の超伝導コイルを直列につなぐ(つまり、電流をたどると一筆書きとなる)ことを検討しています。それぞれの超伝導コイルに必要な起磁力(電流値×コイルの巻き数)はコイルの位置や必要な磁場の形状、強さで決まります。コイルによって必要な起磁力は異なりますが、巻き数を変えることにより、全てのコイルを同じ電流値で運転できるようになります。そうすると、全てのコイルを直列につないで、たった一台の直流電源装置で電流を流すことが可能になり、運転制御等が非常に楽になります。しかし、この方法では、万が一超伝導コイルに超伝導が常伝導に転移する現象(クエンチ)が起きた時に、電流を下げてコイルを保護することが難しいという問題があります。全部のコイルを直列にしたため、電流を急激に下げようとすると両端の電圧が10 万ボルトを超えるからです。そこで、一筆書きコイルの途中途中に、クエンチ保護回路(抵抗と電流遮断器からなる)を挿入して、回路全体の電圧が高くなることを防ぐ予定です。また、核融合反応を立ち上げていく途中では、プラズマの状況に応じて磁場を調整する必要がありますが、一筆書きコイルではそれはできません。そこで、定常運転用の磁場を作るメインのコイルに加えて、磁場調節用の補助コイルを設置します。補助コイルもメインのコイルと同様に巻き数を調節し電流をそろえて、一筆書きにしてつなぎ、一台の直流電源装置で通電します。このような超伝導コイルのつなぎ方を、LHDの超伝導コイルに適用したと仮定して直流電源装置の総容量を計算すると、現在のLHDコイル電源の17分の1で済むことが分かりました。このように、超伝導コイルを一筆書きにしてつなげることは、運転制御のしやすさに加えて、電源にかかる費用を抑えることもできます。
核融合発電炉に必要な超伝導コイルと電源のシステムを構築するには、まだ検討や検証が必要な事項が多く残っています。今後も従来の考えにとらわれない電力システムの検討を進めて、核融合発電の実現に貢献していきます。
図: 将来のヘリカル型核融合発電炉で検討中のコイル接続の概要。超伝導コイルにはヘリカルコイルとポロイダルコイルの2種類がありますが、それらを直列(一筆書き)につないで、一つの直流電源装置で電流を流します。コイルに異常(クエンチ)が発生した時に対処するために、クエンチ保護回路を途中途中に設置します。コイルを一筆書きにすることで、定常運転中の制御がしやすくなる、直流電源の総容量が少なくできるなどの利点があります。